「北の僻地」’71年7月6日

 横浜を出て2日目。ついにソビエト東の港町ナホトカに着いた。
やはりここは異国の地だ。日本の風景とは全然違う。・・・と言うより、今ではすっ
かり見られなくなった懐かしい風景・・・遥か幼い頃、原体験した風景に似ていた。
 殺伐とした広場の真ん中に建つ中間色の公会堂が妙に郷愁を誘う。てっぺんのスピー
カーから何やら時代遅れのような音楽が流れていて、それに耳を傾ける若い男女を眺
めていると子供の頃に街頭テレビで大相撲を観ていた自分にタイムスリップしてしま
いそうだった。

 ソビエト国内では外人旅行者は厳しい監視下に置かれているために、あまり自由な
行動は取れない。俺も他の日本人客と一緒にワンパックの団体行動を強いられていた
が、それでも隙をみて流れから外れて街を歩いてみた。
 すべてが日本の昭和30年代初めのような感じだ。目に付くファッションは作業服ば
かり、女性の服も艶やかな色彩がない。走り去る車は旧式の塗装の剥げたものばかり
で、街灯はといえば木の電柱に裸電球が付いている。街全体にセピア色のフィルター
がかかっているような錯覚を感じた。
 少し歩いていたのだろう、気が付くと街の外れに来てしまっていた。いつの間にか
人の気配も無くなっていて、目の前に灰色の山だけが立ちはだかる寒々とした空間に
立っていた。

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※この物語は著者の体験をもとに構成されていますが、あくまでもフィクションであり登場人物や事件などは演出されたものです。

(C) 本編の著作権は著者に帰属しています。

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