「さらば、ニッポン。」’71年7月4日

 いつの間にか日本を発っていた・・・そんな感じだった。
とは言っても、やはりロシア客船ハバロフスク号が桟橋から離れる時には、デッキに立つ俺の胸にもさすがに多少の哀感が湧いてきた。
 色とり取りのテープが舞い、旅行客の明るい歓声が飛び交う中で、少しずつ小さくなってゆく年老いたオヤジとオフクロの姿を見ていると、心のどこかで申し訳なさのような感覚を感じた。
 一年前に思い立ち、高校を中退してバイトで稼いだ片道キップ。まるで熱病にでもかかったかのように、ひたすら日本を飛び出す事だけを考えて行動してきた俺だったが、実際にその願いが現実になってみると・・・これまで考えてもみなかった様々な思いが頭の中を駆け巡り始めた。
 “北欧にデザインの勉強をしに行く”なんて言うのはあくまでも口実にすぎない。
何かに閉塞感を感じて、ただ無性に未知の世界に飛び込んでみたかったというのが正直なところだったろう。
 18になったばかりの今、白紙の地図と空っぽのリュックを背負って、俺は船に乗った。頭の中では、何故か「遠くへ行きたい」のメロディと一緒に「唐獅子牡丹」のメロディが流れていた。
後2日もすれば、俺はロシアの港町ナホトカに着く。
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※この物語は著者の体験をもとに構成されていますが、あくまでもフィクションであり登場人物や事件などは演出されたものです。

(C) 本編の著作権は著者に帰属しています。

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